2014年07月 守る
沖縄の「今帰仁(なきじん)」という村で、「今帰仁アグー」を育てる高田勝氏(農業生産法今帰仁アグー社長)。一般的に「あぐー豚」と言われているのは、純潔なものではなく、他の豚とのかけあわせがほとんどであるという。「今帰仁アグー」は琉球純系在来種(「純潔島豚」)で、絶滅寸前であったところを、東京農業大学出身の高田氏が、自らの手で頭数を増やし、「種の保存」の努力を続けている。言葉で表現するのは難しいが、牛でいえば「黒毛和牛」に匹敵する上等なものであるという。最近では、農林水産省「ディスカバー農山漁村の宝」の優良事例として選ばれ表彰されたばかりである。 しかし、いくら評価が高くても、実際「今帰仁アグー」を手間暇かけて育て、ビジネスとして展開していくことにはとても苦労されているのも現実である。大量生産はしない、育成にコストがかかる、価格は下げることは難しいなど、実際料理として使ってくれる相手がいなければ立ちいかなくなる。高田氏親子の営業力で、シェフと直接向かい合い、納得していただく努力は素晴らしい。これによりシェフ同士の口コミで、広がりつつあるようであるが、まだまだ拡散したいそうだ。先日、私が紹介した東京・四ツ谷荒木町にある「うえ村」という星ひとつ獲得された日本料理屋で、「今帰仁アグー」を使った角煮を出してもらった。口に入れた途端、とろけるような触感と味に思わず絶句した。他にもフランスで外国人として初めて星を獲得したフレンチの松嶋啓介シェフにも紹介し、原宿にある「KEISUKE MATSUSHITA」でも使っていただき、好評であったという。他にも六本木、銀座のフレンチのシェフへと口コミで使われ始めたようである。専門的な説明はここでは難しいが、肉の脂の融点が低いことなど、高級料理に適するようである。
畜産関係は、監督官庁主導で規格化されていく中、このような貴重な種の保存が難しくなってきている現状を知った。またビジネスになれば、偽物も氾濫してくる現実も。食の安全が優先される中、一時問題となった食のブランドなどの偽装は、厳しく取り締まるべきであると改めて感じた。フランスでは、地域ごとの特色をもった種を大事にする食文化があるという。
もうひとつは、長崎県の島原で有名な「そうめん」についてである。地元に住む友人の話を伺う中、数多くの島原産「手延べそうめん」を手掛けている会社があるとのことであるが、どこも零細企業で事業承継も難しい状態であるという。地元業界団体が存在するようであるが、狭い地域での特性か、いくつもの組合ができ、一つにまとまって、産業の保護、効率のいい経営などをすることもままならないという。これからより高齢化する中、かなりの会社が淘汰されていくであろうとのこと。そんな中、普通のそうめんより数倍の価格のそうめんを手掛ける職人がいるという。原材料にこだわることはもちろん、気温と湿度まで気にかけながら最高の麺を作り上げる。従って、そうめん作りに適さない時期は作らないので、年の半分くらいしか作れないという。(それ以外は、うどんを作ったりはしておいでのようであるが。)このこだわりのそうめん、生産量も少なく、限定された商流で販売されているという。今後、この職人さんの技術の伝承がされていくのかどうか?または、いずれ消え去ってしまうのか?
純潔島豚「今帰仁アグー」を育て続ける。こだわりのそうめんを作り続ける。 個々の世界に、ビジネスベースに乗らなければ、消えていってしまうだろう物が数多く存在することを改めて認識した。こだわりのあるもの、手間暇がかかっているものは、結果的には、価格は高くなることはいたしかたがない。安全でいいものを守り続ける一方、それを消費してゆく市場が、同時に育っていくことが大切なのであろう。自分自身の消費を省みると、日頃高くて買わないけれど、お中元&お歳暮などの贈答品としては、喜ばれるかも?というところで、手にすることがある。日本の文化・習慣は、このような物を守ってゆくひとつの手段であったのでは?と思うこの頃である。日本の中で培われてきた色々なものを守ってゆくためにも、みなさんもそんな消費の仕方をしてみませんか?
平成26年7月吉日
悟空の里主人 金森 悟
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