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2018年02月 海上研修

 日本には、将来の船乗りになるための研修船が5隻ある。そのうち帆船は、「日本丸(にほんまる)」と「海王丸(かいおうまる)」と呼ばれる2隻。どちらも昭和の始めに建造され、現在はそれぞれの2世が遠洋&国内研修航海で活躍している。今回、私は「海王丸」で三泊四日の研修を受ける貴重な機会を得た。

 2月13日朝7時30分、大分県別府市の「大分港」に接岸されている「海王丸」に8名(うち女性1名)の研修生が集合。すでに1月から洋上研修を行っている93名の実習生たちに合流した。我々は8人部屋に通され、研修服に着替える。その後、甲板で乗員約100名が整列する前で「乗船式」が行われ、「広島港」までの研修航海が始まった。毎朝の起床は6時30分、すぐに甲板に上がり、集合&報告、体操。甲板掃除(天候で判断)、船内清掃をし、7時30分から朝食。12時30分の昼食を挟んで研修があり、16時30分から夕食。20時に船内清掃があり、22時30分に消灯。この規則正しい生活に、約100人が動く。朝昼の集合は、全員揃うまで待機。遅れた者は、全員の前で自分の名前を述べ謝る。(病人などは除く)甲板掃除は、毎日あるわけではないが、今回の経験は、気温2℃の中、裸足で、ヤシの実を手に、海水をかけてもらいながら甲板をこする。しゃがんで、数十メートルを進むことはかなり苦痛であった。「海王丸」は、36枚の帆を張る。マストの一番高い所で、43.5メートル。帆を張る&たたむ作業は60名以上の人数で行う。経験のない我々研修生は、当初、体力テストを経て、マストに登るとされていたが、ぶっつけ本番、命綱を付けて、一番下のマスト(高さ15メートルくらい?)に登ることとなった。ロープで組まれた階段は、一番下のマストまででも50段以上ある。半分ほど登ったところで、足裏の痛みが激しく耐えられないくらいに。降りるにも痛いし、登るしかない。登りきったところで、命綱を外すが、ロープがあるだけで、落ちれば確実に命を落とす場所である。続けて、降りるのであるが、これも半分過ぎたところで、足裏の痛みが半端ではない。留まるのも痛い。我慢しながらなんとか甲板に。涙が出そうな痛さであった。日頃、使っていない筋力、体の一部は、極めて弱いことに衝撃を受けることになる。

 また、当初は「船酔い」を想定しで、相当な覚悟で臨んだが、今回の研修コースは、セールの上げ下ろしの訓練があり、波のない静かな海面で行われた。その後帆走したのは数マイルのみで、航海のほとんどが、エンジンで走る機走であった。一泊は、一晩を通じて航海する訓練が行われ、二泊は、洋上に錨を下ろし停泊。船が大きく揺れることなく、船酔いはせず、コンパクトな空間で、規則正しい船内生活を送った。

 研修中、船長並びに学生の教育担当責任者らとの懇談の機会が設けられた。学生の規律の正しさ、海洋研修のすばらしさを語り、海上交通&運輸の重要さを持つ一方、「海洋大国日本」といわれながらも世間の関心の低さを知る機会となった。島国日本の物流は、航空機によるものが増えてはいるが、大量輸送&大型のものの輸送では、船舶に依存せざるを得ない。石油を運ぶタンカーにはじまり食料などの生活必需品の輸入、自動車&機械などの輸出は、日本人&日本経済を支える要である。自分の身の回りに大手船会社に就職した人間は知っているが、船に従事する人は身近にいない。改めて、自分の知らない世界で活躍する人たちの存在を知ることとなった。

 三泊四日の研修を通して、日頃、世の中がどのように動いているかなど、漠然と考えているが、視野の狭さ、関心の浅さを感じた。加えて、自分の体の弱体化、時間管理の甘さなどを感じ取れたのではないかと思う。日常生活と違う世界で生きる人たちと出会うこと、その環境を体験することは、今年還暦という区切りを迎える自分にとって、これから生きていくための何かヒントをいただいた気がする。

 皆さんも毎日の生活の枠をちょっと超えて、人と出会い、違う世界に触れてみませんか?
ひとつ、瀬戸内の海の穏やかな水面に映る街の光、山々など、海上から眺める景色は、心を穏やかにしてくれた。風を追いかけながらほとんど帆走する遠洋研修では、数週間の間、360度海しか見えない世界を進むという。陸の明かりが見えた時の感動は、素晴らしいに違いない!

平成30年2月吉日
悟空の里主人 金森 悟

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